夕焼けクルージング納涼船

 犬の散歩に少し出ていただけで、黒色のTシャツとジーパンを太陽が焼く。太陽に当たっている側だけが熱くなってくる。手のひらを返すように夏がやってきた。  前島フェリーのチラシを職員の方が持ってきた。僕の薬局は町外の方が多く来られるので宣伝に一役買ってもらいたいのだろう。一役でも二役でも端役でも買ってあげたい。「夕焼けクルージング納涼船」と銘打ったチラシによると、7/23 7/30 8/6の3日間午後6時半から、日本の夕日百選に認定されている牛窓の夕日を船上から眺めながらのクルージングらしい。  前島フェリーは本来島民のための足なのだが、このご時世だから、努力して収益も上げなければならないのだろう。いつ誰が考え出した企画か分からないけれど、どう見ても手八丁口八丁ではない人達の集団だから、何となく気にもなるしお手伝いしたくもなる。  フェリーから眺める夕日はそれこそお勧めだ。観光資源の乏しいこの町で観光を歌い続けている気恥ずかしさから、お勧めできるものは余りないが、あの夕日は本当に綺麗だと思う。過敏性腸症候群で悩める若者達が恐らくすでに50人くらいが訪ねてきてくれ泊まっていったが、彼ら彼女らにあの夕日を見てもらった。そのうちあの夕日を見た人は過敏性腸症候群から脱出できるという我が家だけに通じるジンクスが生まれ、今では意地でも見てもらうことにしている。漢方薬の非力さを夕日で助けてもらうという薬剤師の風上にも置けない発想だが、風上に置いてくれなくて風下でもいいから、彼らが完治してくれることを願う。  ところでこの数年、過敏性腸症候群で全く効果が出なかった人は数えるくらいですむようになった。何らかの効果はほとんどの人に出せれる。以前のように試しに?2週間飲んでみるというようなドクターショッピングの人が減ったこともあるけれど、600人もお世話すればもう症状は分かりすぎるほど分かるし、何をどうすれば治るかも分かる。それこそつまらない話をしながら夕日を見て潮風を追いかければ心や身体の緊張感はほぐれる。より早く、より高く、より正確に、より能率的に・・・絶え間ない圧力に悲鳴を上げている心や身体に直球はいらない。音戸の瀬戸を渡るフェリーの揺れくらいが丁度いい。