僕も数年前に、母を連れて深夜高台に逃げたことがあるから、自然の恐ろしさは身をもって経験している。それでも尚紹介したい光景をテレビで目撃した。あの光景はいったい何だったのだろうと、昨日までとは一変して刺すような太陽の光に思わず瞼を閉じる今日、何度も何度も思い出した。  一見すると何も不自然な映像ではなかったのだが、偶然朝と夜、同じ映像が流れたので、どこか違和感を感じていたものの理由が分かった。恐らく中国地方のある町が川の氾濫により水没している映像だろう。丁度交差点付近を胸まで水に浸かりながら歩いている中年男性が写っていた。その時点で雨はほとんど降っていなかったのではないかと思われるが(映像に雨は映らないし雨音も聞こえなかった)胸まで浸かって何処へ行こうとしているのかその男性が、傘をさして歩いているのだ。胸まで黄土色の水に浸かっているのに、小降りの雨を今更傘でよける必要があるのだろうか。色々想像力を働かせてみるが、傘を持つ納得のいく理由は見つからない。黄土色の水には家々の下水やトイレの汚物も混ざっているから、相当汚染されたものだと思うのだが、それが直接皮膚にあたることよりぽつぽつとあたる雨の方が気になったのだろうか。  何故胸まで泥水に浸かりながら傘をさしたのか尋ねてみたい。どうせなら泳いだほうが早そうだが、さすがにそこまで勇気はなかったのだろう。悲惨な状況が伝えられる1週間の映像の中で、僕が見つけた「何コレ風景」だ。