音痴

勉強会に出席してくださいと勧誘を受けるのが普通なのだが、今回は違った。家族の誰かが出席できるだろうと思い、出席の返事だけはしておいた。ところが結局は僕しかその日はあいていなくて、僕が出席することをセールスに伝えると、彼は数時間後電話をしてきて「先生には合わないと思います」と正直に教えてくれた。と言うより、やんわりと断られたという方が正しいのかもしれない。  活躍している薬局経営者が講演するらしくて、そのテーマが引きつけたのだ。ダイエットとか色々標榜していたみたいだが、子宝相談でも評判と紹介文にあったから、色々質問してみようと思っていたのだ。僕は20人くらい子宝に恵めれる手伝いをしたが、100%僕のおかげなのかどうかは確信が持てない。だから、その種の相談を敢えて得意かのように標榜することに抵抗を持っている。ガンなども同じだ。どのくらい貢献できているのか分からないものに対してはとにかく謙虚でなければならない。薬局の最大の弱点は証明できないことだ。多くの雑病をお世話するのは得意な職業だが、データが取れるわけではないので全てが経験値なのだ。だからことさら大げさに「おかげ」を振り回すのは良くないと思っている。少しは役に立てたくらいが一番精神的にはいい。力もないのに、藁をもつかむ人達に高額な商品を売りつけてはいけない。  彼がやんわりと僕に辞退を促したのは、どうやら講演内容が、ダイエットや子宝の販売促進の話になるかららしい。ダイレクトメールの打ち方とかなにやらとか主題らしいと教えてくれたが、全く興味がないことだから、良く教えてくれたとお礼を言っておいた。そんなことを聞くための時間はない。何十年も前、右も左も分からないままで帰ってきた頃なら役に立つ内容だったかもしれないが、今さら「商売」は辛い。 不景気になり、無駄なお金が使えなくなった人が多い。薬も飲みたくても飲めない人も多い。そんな時に売り上げを増やしましょうと言う扇動は空しい。企業はそれなくして存続の意味はないのだろうが、僕ら個人は違う。少し倹約して必要なものだけを手に入れればいいのだ。限りなく無駄で成り立っていたのが今までの経済なのだから。節約を説くのは最早美徳ではなく、経済音痴の戯言のように思われてしまうが、それでも意味のない買い物はしないがいい。ひんしゅくを買うのとどちらが高くつくかな。