混乱

 朝が垂直に明けていた。池をも凍らせる冷気にあがなって工場から吐き出される4本の煙がマイナス5℃を表示していた。四面を氷に覆われた車に何回も水をかけ、そのたびに又結氷する。北国に住む女性からの便りにマイナス20℃と言う想像もつかない数字を見つけ、ちょっぴり真似事をして創造力を鍛える。 だが、最貧と混沌の国のがれきの下は想像できない。救いのない絶望的な恐怖を想像できない。体験に優る創造力を持たない。ひたすら豊かさを求めた時代に育ち、おおむねそれを達成した国で、嘗てはすでに活字の中に隠れ、嘗てが嘗てでは表現できなくなっている。苦難は克服するためにあるのだが、克服した瞬間から原罪と化す。 仮初めの中に転倒した真実は、沈殿した日常の排気口。終点のない路線バスは迷い子の叫びに似て峠を下る。枯れた古井戸に昇る太陽、行き先を告げずに立つ鳥数羽、圧倒的な氷点下は、圧倒的な欠如。仮初めの中で混乱した今日の1日。