律儀

 もう正月も6日目にもなっているのに、そして世間は閉塞感の中でもとっくに動き出しているのに、今日荷物を運んできてくれたトラックの運転手さんが「明けましておめでとうございます」と言いながら入ってきた。律儀なものだ。大柄でいかつい顔に真実が覗く。  僕がこの仕事をしてきて一番良かったことは、30年間、人の本音と接することが出来たと言うことかもしれない。本音を30年間聞き続けて来れたおかげで多くのものを学ぶことが出来たと思う。土地柄、肩書きに驚いたり、経済力に圧倒されるような人が皆無に近かった。その代わり地方ならではの本音ばかりの人と接することが出来た。幸せも不幸も、喜びも悲しみも大きすぎなかったし、小さすぎもしなかった。当たり前に生きている人が、当たり前に遭遇することで、当たり前の喜びや悲しみを表現しながら暮らしてきた。共感は反発よりも好まれたし、蔑視は敬愛には勝てなかった。大志は子供時代の卒業と共に捨てて、自ずと身の丈を学んでいく。夢が遠ざかれば遠ざかるほど道行く人々がいとおしくなり、老婆に恋をする。  凡人のつかの間の人生をいくつ並べても、大きな破壊の前で戸惑う創造しかできない。人の心を破壊せずに、人の生活を破壊せずに、波に打たれる堤防を1cmも破壊せずに生きて来れたなら許してもらおう。律儀で全て許してもらえる冬が凍てつく朝のように。