ブラスバンド

 買い物をして再びアーケードの下に出てくると大きな音で「千の風にのって」が演奏されていた。見るとすぐ傍で20人編成くらいの黒い服の団員によるブラスバンドが演奏をしていた。指揮者だけがこちらを向いていた。白人男性だった。バンドの横に行き見てみると全員が白人だった。年齢は高そうだった。僕くらいの年齢を前後しているように見えた。女性が二人混じっていたが、男女とも大きいというのが最初の印象だった。これくらいの体格がないとブラスバンドってやれないのかと、素人に思わせるほど揃って恰幅がよい。僕も日本人の中では決して背が低い方ではないが、団員の全員に体格では負けそうな気がした。その延長線でつまらないことだが、武器を手にしても、格闘技でも勝てないだろうなと思った。大きく張られたポスターに日蘭交流音楽祭と書いてあったから、オランダ人なのだろう。オランダ人って、大きいんだと、まるで音楽とは関係ないことで感心していた。昔その国の人達と戦った歴史があり、今はk-1で戦っているが、どう見ても体格的には不利だ。逆を言えばリングの上といえども互角に戦っている日本人選手がすごいと思った。 ウサギ追いしかの山・・・・金管楽器の迫力ある音色とマイナーな感じの原曲が、アーケードの下で足を止めて聴き入っている200人くらいの人達の日常を巻き込んで一つになっていた。指揮者や団員の表情には笑顔が溢れ、曲ごとに大きな拍手を送る聴衆にもそれに負けない笑顔が溢れていた。争い戦う必要のない日は必ず来る。これも又音楽には関係ないことが頭に浮かんだ。貧困が克服されれば、人は争う必要など無くなる。満たされていれば人を傷つけたりはしない。指導者と呼ばれる年寄り達の欲望に若者が利用されることもない。ほんのついさっき会ったばかりの人達がもうこんなに笑顔を交換している。言葉も分からないのに、完全に無防備で心を通わせている。楽譜という世界の共通言語で結ばれている。  鳴りやまぬ拍手がアンコールに変わったとき、平和っていいものだなと、まるでそれが縁遠いものであるかのような錯覚の中で思った。