シュレッダー

 ある人から、シュレッダーで出来た紙くずをくれないかと頼まれた。薬局には毎日のように製薬会社から情報が入ってくるので紙には困らない。寧ろその処分に困るくらいだ。だから昨年、偶然ある製薬会社からシュレッダーをもらって使わない日はない。僕のお気に入りの機械だ。裁断された紙くずは、荷物のクッションになり又生き返る。今回の申し出は、その紙くずを使い古したストッキングに詰めて、大きな洞窟を作る時の基礎にすると言う、ある先生のものだ。休日、ボランティアでお世話している子供達と作るらしい。その活動には参加できないが、紙くずならいくらでもある。  ところがその紙くずの量が圧倒的に足りない。1ヶ月も前に頼まれていたら何とかなるのだが、1週間ではさすがに洞窟分は無理だ。そこで僕が思いついたのは、家の隅にうずたかく積まれた1万円札の束。世のため人のためと思い、それをシュレッダーにかけ、恐らくこれで完成するだろうと思う紙くずの山を作った。  妻は老人家庭に薬を配達するときは必ず使い古しの封筒に釣り銭を入れて持って出る。配達先ではほとんど老人は、お札で会計をすませる。だから帰りには、お札が一枚入っている封筒を持って帰ることになる。使い古しの封筒にお札が一枚だから余程気をつけないとゴミにしか見えない。それは青い封筒だった。妻が配達した後、なにげなくシュレッダー近くに置いていたらしい。僕はまさか配達した後の封筒だとは思わなかったので、何も考えずにシュレーダーに入れた。ところが夕方、妻が「配達したお金を知らない?」と僕に尋ねたことですべてが理解できた。何を思ってか、いや何も思わずにか、その封筒に限って中身を確認せずにシュレッダーにかけてしまったのだ。それから慌ててシュレッダーの中を出して見てみたが、勿論福沢諭吉の骨は拾えなかった。ああ、なんてことをしてしまったのだろうと血の気がひくは、冷や汗は出るはで、夫婦責任のなすりあいで辺り一面が血の海となる。 シュレッダーにまつわる嘘のような嘘の2題。どちらがありそうかと言えば圧倒的に後者の方。1日18時間働いて貧困率15%の方に入る人、アルバイトで母を助ける子供達、こんなに貧しい人達を作った豊かな人達こそシュレッダーにかけて洞窟の壁になるべきではないか。