好奇心

 狭い薬局に5人の集団が、それも蛍光の黄色いユニフォームで統一してでんと腰掛けていたら、他の人は入ってくる勇気はないだろう。日生の沖にある鶴島を巡礼で歩いてきて、その後寄ったらしいのだが、地理から判断すれば道なりとは言い難い。わざわざという方が自然なのだが、ほんのついでと表現した。 もうずいぶん前から我が家に行ってみたいと言うから、僕は頑なに断っていた。牛窓の地に足を踏み入れたら打ち首獄門だと言っていたのだが、ついに来てしまった。禁断の果実ならぬ、禁断の薬局のままでいたかったのだが、ついにのぞき見られてしまった。 全員が僕より年上で、一回り以上大きい人も中には混じっている。一言で言えば、元気だ。羨ましい限りと言ってもいい。気性が良く合うのかおしゃべりが絶えず笑い声も絶えない。好奇心だけでやって来たのだろうが、白衣姿の僕を見てどう思ったのだろう。知り合ってからまず真面目な顔をしている僕を見たことはないだろう。難しいことはすべて避ける、のらりくらりとつかみ所のない男に思っていただろう。取っつきにくい、不真面目、だらしないは、何度も耳に入った。その都度僕は言うに言われぬ解放感に浸っていた。そこでは日常のあらゆる束縛、呪縛から逃れ、全くの自由人を気取っていた。知らない町で、知らない人とたわいもないおしゃべりで時間が潰れるのは、制服のボタンを一つずつはずしていくような心地よい脱力感があった。  ああ、それなのにそれなのに、来てくれなければよかった。目の前にいる僕だけを評価してくれれば良かった。あの震えが来るほど嬉しい見たままの評価が僕には勲章だったのだ。あれ以上はいらない。あれだからこそ自由人でおれたのだ。肩書きも、住居も、仕事ぶりも、僕を代理するほど大したものではない。僕の評価を上げもしないし下げもしない。 さて、心身共にすこぶる健康的なおばさん達の好奇心を満たすことが出来たのかどうか。女性ホルモンの枯渇と共に女性はステロイドホルモンの分泌が増えてとても元気になる。それを地でいっている人達は薬局を出て港まで2kmをまた、おしゃべりをしながら往復した。その体力とおう盛なる好奇心に脱帽。  ああ、日曜日が怖い。