転身

 ある中年女性が、煎じ薬を30日分持って帰ると言うから焦って作っていたら、次に入ってきた同年輩の女性と顔見知りらしくおしゃべりに花を咲かせてくれた。次に入ってきた女性も五十肩の漢方薬だから、待ってもらうしかなかったのだが、二人が楽しそうに話すものだから、おかげで気兼ねなくゆっくりと作れた。なにぶん家内工業だから多くの人をさばける体制ではない。ぽつぽつと来てくれる人をゆっくりと冗談を言い合ってお世話する、それが精一杯だ。 いやいや、そんなことはどうでもいいのだ。僕が感心したのは二人がどちらも福祉施設のオーナーだってことだ。恐らくデイサービスの施設を運営しているのだと思う。二人が笑い声も交えて楽しそうに大きな声で話すので内容は丸聞こえだった。二人とも僕より少し年下で、同じ中学校に行っていたから幼いときから知っている。結婚もしてそれぞれに仕事をしていたが、何時福祉事業に転身したのだろう。どれだけの資本が、又どれだけの従業員が必要なのか分からないが、よくその様な準備をして開業できたものだと感心する。  田舎だから、またこのご時世だからなかなか仕事はない。ご多分に漏れずこの町からも多くの大会社が撤退していった。古くからの地場産業も多くは消えた。そんな中で起業したおばちゃん達に何とも言えぬ逞しさを感じる。田舎のおばちゃんだから、出しゃばった感じもなく、どこから見ても商才があるようには見えない。自分から言わない限り誰もオーナーだとは気がつかないだろう。いや言っても信じないかもしれない。肩書きはどうでも所詮田舎の奥ゆかしいおばちゃんでしかないのだ。  二人に作っている漢方薬の内容からしても、仕事に一生懸命なのがよく分かる。経営者を気取って回っていくような状況でもないのだろう。どちらかというと目立たないおとなしい二人の華麗なる?転身が、社会の一隅をささやかに照らしているのがとても嬉しい。