忍耐

 もう頭の中から完全に消えていた。半年くらいは恐らくたっているのではないか、その女性の知り合い?から紹介されたのは。毎日がしんどくて仕方ないそうだから相談にこさせると言っていた。  長い間来れなかったのはしんどかったからだ。今日は体調が良かったから来れたという。車でどのくらいかかるのか分からないが、幼い子を連れてくるのは大変だったろう。先月までなら、電話で問診をし薬を送ることですんでいた。ところが今月からどんな症状の方でも来てもらわなくてはならなくなった。30年近く喘息で呼吸が困難な彼女を、病院でも治すことが出来ないでいる。毎日がすごい倦怠感なのだそうだ。勿論僕がそれを治すことが出来るかどうか分からないが、少なくとも可能性だけはもっている。試さない手はないだろう。もし症状を軽くすることが出来たら、どんなに日々が楽しくなるだろう。偉い人達にはこんな症状の人はいないのかなあ。呼吸が苦しくても、赤ちゃんを見、小学生を送り出さなければならないような人はいないのかなあ。町の薬局に望みを託さなければならないくらい困っている人はいないのかなあ。苦しくても婚家の中で笑顔を作っていなければならないような人はいないのかなあ。 親子二人楽しそうに帰っていった。可愛いお子さんだったねと娘が妻と話していた。僕が作った薬に期待してくれているのだ。帰る前にいつもの癖で、しんどかったら来なくてもいいよ、送ってあげるからと言ってしまい慌ててうち消した。喘息で呼吸が苦しいのに、運転して来れるのだろうか。どうしてこんな庶民のささやかな希望を奪うのだろう。都会のビルの上からは下々は見えないのか。所詮分かり合えない関係なのか。その人達に支配される関係なのか。  誰もが何時までも忍耐の中で身を潜めているとは思えない。