マスク

 このところは、薬局と言うよりマスク屋さんだ。僕の薬局にマスクを取りに来る人なんか滅多にいなかったが、今年は多い。風邪を進行形でひいている人はもとより、どこか人混みに出かけなければならないからとわざわざ買いに来る人もいる。どうしても出なければならない所ならまだしも、中にはパチンコに行く途中で買いに寄った人もいる。パチンコにいけるくらい元気なら風邪やインフルエンザは移らないだろうと思うのだが、この人にとって何が大切なのかと尋ねてみたくなる。  報道のせいか宣伝のせいか、インフルエンザという言葉を多くの人が口に出すようになった。今はやっているインフルエンザと将来爆発的に流行するかもしれないインフルエンザとを混同して、みんなが過敏になっているのだろうか。その過敏に乗ってタミフルは大量消費され、ウイルスはかなり抵抗力をつけてきた。1日か2日熱が早くひくからと言って、無分別に使い続けたせいだ。せっかくの薬が必要になるときには能力をそがれている可脳性がある。医療も所詮商業行為であって何ら聖域をもって語られる領域ではないが、学者の一途な心も、最終的には経済で評価され表現されるのだ。空しいけれどそれが人間の大いなる原動力なのだから仕方ないか。  1日か2日熱が早く下がったあげくはどうするのだろう。早く出社し、早く登校し、菌をばらまくのだろうか。病気の時でさえゆっくりと休むことが出来ないようにした効率優先の世の中に、無理やり歩調を合わせなければならない。病気をしている暇もない。身体も心も差し出してみんな懸命なのだ。田舎の、ごく普通の昔ながらの薬局でも50種類の心のトラブルの薬を備えている。のんびりとした町なのに、心の薬がこんなに必要だなんて。都会で暮らす人達はもっと大変だろう。  冷たい夜の雨に流れ去る愁いはない。不安だけが音を立てて凍り付く。頑張らないで・・・頑張らないで。まるで冗談のように生きて。