武者震い

 僕なんかよりずっと前から漢方薬を勉強している先生から電話を頂いた。僕が事務方をしている勉強会の大先輩だ。僕は若いという理由からだけで雑用をさせてもらっているが、その雑用故に、色々な方とお話をする機会を得、知識を少しずつ享受させてもらった。  僕よりずっと長く薬局も漢方もやっているから、色々なことに造詣も深いし、知識も情報も持っている。その先生が、珍しくある人を批判した。巷では成功していると見られている人なのだろうが、僕らプロから見ればその仮面たるや空々しい。素人の方を煙に巻き物を売る。事病気に関する範疇だから、誇大広告も、盲信も許されないのだが、およそ科学とかけ離れたところで商品が動く。その手法を暗に批判したのだ。  物売りはいけませんよ、治して差し上げなさいと長い薬局人生の中での教訓を下さったが、その心配はない。そもそも漢方の研究会に入らせてもらうときに、先輩方からくぎを差されている。そして誰でもが飲めるような金額を具体的に示された。  世の中が不景気になって、少しは慎ましさが見直されるようになった。誰もが金持ちの真似をしているよりは数段ひたむきさを感じる。懸命に働いて、職を失うまいとする人達に、やっと連帯の感情が生まれている。明日は我が身になって初めて、人の痛みの一端を理解しようとし始めた。欲しがっていた物は実はそんなに価値がある物でないことも分かるだろう。煩わしかった物が、実はもっとも大切な物だったって事も分かるだろう。空腹だからこそ、くぐる人情ののれんもあるだろう。  身を切る寒さに、武者震いもいいものだ。