目を閉じていても眼瞼を透過する光の量で朝の位置が分かる。身体がまだ倦怠を引きずっていて、1日を始める決意に戸惑う。カン、カンとガラスとガラスが接触して音を出す。近所のおばさん達のゆっくりとした会話も聞こえる。今日は1ヶ月に1度のガラスゴミを回収する日なのだ。回収箱が薬局の前に置かれるから、早朝より近所の人がそれぞれガラス瓶を運んでくる。まどろんでいる僕の耳にガラスがたてる高音は、とても気持ちよく響く。どこにでもある、ありふれた日常の始まりの音だ。演出されない「生活の音」だ。山鳩が鳴き、鶏が泣き、烏や雀が鳴くように、朝を告げる音だ。ベルを鳴らし緞帳を上げなくても朝は始まる。人為を排した透明な朝の幕開けだ。