江戸時代

 アメリカの食品医薬品局が最近言い出したことで、風邪の治療が大きく変わることになるかもしれない。  熱はウイルスや細菌に対する闘争反応だから、薬で無理矢理下げるのは良くない。咳は異物を排泄する反応だからやたらに止めるべきでないと言うのだ。恐らくずっと以前から、現場のお医者さんだったら当然気がついていることだろうが、患者さんの要望もあり、極端に自然治癒力に任せるのは出来なかったのだろう。お墨付きをもらえば、現場でも理想的な治療が出来るのではないか。お医者さんは、頭痛などの症状改善、高熱で痙攣を起こす人の予防、脳炎や肺炎の早期診断に比重を移していくものと思う。  今年横浜でタミフルが効かない集団感染があった。国内初のことだ。ところがヨーロッパではすでに、ノルウェーでは66%、フランスでは39%などのタミフル耐性ウイルスが見つかっている。新型インフルエンザがまだ流行りもしないのに、もうすでにタミフルが効かなくなっているのだ。ありふれたインフルエンザに競うように使った結果だ。水分を補給して寝ていれば治るトラブルに、高額な薬を使ったからだ。作ったものは消費しないと利益を生まない。薬だって同じだ。どんどん消費して生産しなければ利益は出ない。使う機会がない方が幸せに決まっているが、それでは開発費も出ない。消費してこそ利益が上がるのだ。何かと似ている。人を救うはずの物が、人を殺す物と似ている。  自然治癒に勝る名医も薬もない。100年かかって振り出しに戻る。風邪を引いたら暖かくして寝ておけって。至極簡単なところに帰っていく。宇宙に滞在できる時代に、江戸時代と同じ治療に帰っていく。