飛行場

 同じ県内、それも車で1時間半くらいで来れたところなのに、この寒さはどうだ。1週間前に降った雪が、空港の建物の陰にまだ残っている。山を削って出来た飛行場だから高いところに位置していて、道中で一度耳が詰まって空気を抜いた。今まで多くの方が訪ねてきてくれたが、飛行機で来たのは初めてだ。おかげで滅多縁がないところまで来れて、おまけに近くで見たことがない飛行機を興味深く見ることが出来た。  雪の中、身を切るような冷たさの中、後楽園と岡山城を見学した。僕といると、過敏性腸症候群の人は何故か症状が出ない。色白でスリムな彼女も、寒い寒いを連発しながら僕以上に元気だった。前もって調べたと言う彼女の予定のコースを急ぎ足で消化した。明日は牛窓に来て薬局を見た後、倉敷に行くらしい。ヤマト薬局以外に小さな一人旅を楽しんでくれたら嬉しい。  彼女に何か旅の想い出をプレゼントしたいと思っていたときに、備中温羅太鼓という岡山県では恐らく一番実力のある和太鼓集団の定期演奏会のチケットが手に入った。総社市と言うところまで足をのばし、2時間の演奏を堪能した。彼女に今の演奏を言葉でどう表現するか尋ねたら、「すごい」としか言えないと言っていた。僕も同じだ。どう表現していいのか分からない。表現がつたなすぎて価値を落としてしまいそうだ。生の音を聞いてもらうこと以外に、感動を伝える手段をもたない。  彼女は2週間に1度、電話をくれる。症状の説明をしてくれたり、少しだけ雑談もする。ゆっくりとした口調が、電話から漏れ聞こえる足音とハーモニーをなして、体温が伝わっていた。実際にあって、8時間行動を共にする間に、体温だけでなく平面が立体的になり、白黒の絵もしっかりと色彩を帯びてきた。人格が僕の側で完成した。「やる気、根気、元気」を彼女にプレゼントしたい。そうすれば自ずと懸案は片が付く。一緒に過ごしてそう思った。彼女も又、単なる色白で冷え性でスリム、性格良過ぎ病だ。彼女の穏やかな表情にとても心休まる1日を頂いた。