草根木皮

 九州にあるA老人施設は、去年1年間の発熱患者70例の内65例に漢方治療を行った。その内漢方薬だけが60例、アセトアミノフェン坐薬(すごくマイルド)併用が2例、抗生物質併用が5例だった。漢方薬だけで治療した患者さん60例中54例が3日以内に解熱し治癒した。解熱しなかった6例中5例に抗生物質が与えられ、2例は入院した。一方初期に漢方治療が行えなかった5例中4例が入院した。  僕の薬局でも老人施設の処方箋薬を作っているのでこの報告には驚いた。そもそも、肺炎のリスクが高い老人施設で、抗生物質を使わない医師の勇気に感服する。本来なら風邪を治すのに抗生物質は全く必要もないし、効きもしない。ところが日本では悪しき習慣で医者が抗生物質を乱用する。患者も戦後の抗生物質信仰が未だ残っていてそれをありがたがる。実際には、身体の中の善玉菌を殺すし、耐性菌が出来るのに荷担してしまうのだが。安静を保ち、漢方薬で治すと風邪はスパッと治ることが多い。身体の中を製薬会社が喜ぶ薬の最終消費地にすることなく、自然治癒力を大切にしながら老人の発熱を治しているA施設の善意を感じる。  ちなみにこの施設では年末に流行ったノロウイルスによる嘔吐下痢にやはり漢方治療を行った。すると誰も点滴をすることなく平均1.2日で下痢が治った。僕も嘔吐下痢には漢方薬を作りそのくらいで治って頂いていると思う。普通現代医療で治療するとこの3倍はかかっている。下手をすると10日くらいかかる老人も居る。  漢方薬が全て優れている訳ではない。むしろ逆だろう。科学の粋を集めた現代医学に勝てる分野の方が少ない。しかし、科学が、自然から離れていく距離を埋める物をもっていない限り、漢方薬を始め自然科学のよってたつ所は大きく捨てがたい。身体の中に石油から出来たものを入れるより草根木皮から出来たものをいれる方が自然だろう。直感に近いけれどそう思う。