賛美

 電話で、中部地方に住む青年と話をした。彼は受験生なのだが、気の利いたようなアドバイスは僕には出来ない。以前にも書いたが、自分の思ったとおりに進路が切り開かれた経験がないのだから、僕の体験などなにの参考にもならない。ただ、もし役に立つことが出来るとしたら、彼が受験に失敗した時だけだろう。その時の対処の仕方は、参考になるかもしれない。浪人に留年、遅れることの経験は豊富だ。就職しても1日で辞めたし、再就職も1日で断わられた。  彼と話をしていて、受験生の息苦しさを思い出したが、それは決して絶望への窒息ではない。新たなる展開への扉でもある。しんどいのは頑張っている証拠。頑張らなくても時間が過ぎる僕なんか、毎日が楽で楽でしょうがない。確実に人生の坂道を転げ落ちているのだから。加速がついてなにもしなくても転がり落ちる。夢を無くし、目的を無くしてご覧。こんなに楽な人生はない。愛する人も無く、愛される人も無く、大切にする人も無く、大切にされる人も無く、守る価値観も無く、守られる制度もない、自由と言う名の束縛も無く、平等と言う名の不平等もない、こんなに虚無に満たされたら、毎日が楽で楽で仕方ない。息苦しいのは自由を渇望している証拠。しんどいのは向上している証拠。坂道を登りつづける青年の生みの苦しみに賛美。