老婆心

 男でも老婆心と言うのかどうか知らないが、全くの老婆心だった。 過敏性腸症候群が完治した人で、今はほとんど必要ないのだが、恐らく高級な胃腸薬程度の積もりで半年に一度くらい漢方薬を頼んでくる人がいる。半年ぶりに電話をくれたから体調を尋ねると、1日に18時間くらい働き、食事はカップラーメンやホカ弁くらいらしい。それでまずまずの体調なのだからそれはそれで凄いことなのだが、僕の老婆心を吹き飛ばしてくれたのは、18時間も働かなくては仕事が追いつかないその超繁忙ぶりだ。巷では先生と呼ばれるある職業なのだが、それもかなり難しい試験に合格しなければとれない肩書きらしいのだが、漢方薬を送っている頃に開業するという話を聞いた。全く僕などとは分野が異なるので、詳細は分からないが、しかし自分で仕事を開拓する難しさは共通していると思うから、何となく気になった。敢えて困難な環境に飛び込まなくてもと、冒頭の老婆心が頭をもたげてきたものだ。なんとか軌道に乗って能力がいかせられたらいいなと、漢方薬を送る度に思っていたが、今日の会話で忙しさが伝わってきたから安心した。独立した人が忙しすぎるのは幸せだ。その逆はそれこそ心も身体もしんどいだろう。一所懸命働いているときにはよい循環をするから、それこそ心身共に心地よい。まして若い彼だから尚更だろう。  過敏性腸症候群でいろいろなことを諦めている青年は多いと思うが、そんな必要はない。能力不足や環境に恵まれないで諦めるのは仕方ないが、この忌まわしい病名?では諦めて欲しくない。それが証拠に、僕の所には彼を始め沢山の夢を掴んだそのトラブルの人達がいる。もう数年も経てばこの世からいなくなるだろう一部の老人ばかりに富や権力が集中している世の中で、後何十年も生きていかなければならない若い人達が、ほんの少しの喜びも享受せずに耐える必要はない。その溢れる生命力を生かさない手はない。専ら創ることよりも壊すことが得意な世代がいつの世にも必要なのだ。壊すからこそ創れることに気がついて欲しい。