路地裏

 僕の住むこの町も最近までは「郡」だった。人口7200人くらいだから当然のことだ。それなのに合併したものだから「市」になった。長年の町長や議員達の無策を故郷を捨てることで支払わされた。どこの町でもそうだと思うが、町をつぶした輩が合併した後も生き延びているから性質が悪い。  合併で色々な機関の人達が移動を余儀なくされている。今日もある機関の人でよその町に派遣された人が嘆いていた。牛窓を出てみて牛窓の人に如何に助けられていたかよく分かったと。自分の町をひいきするするつもりは全くない。テレビに映される日本の素晴らしい共同体は枚挙にいとまが無いことくらい理解している。この小さな地域での相対的な話しになってしまうが、穏やかな瀬戸内気候に育まれた、漁師や百姓の謙遜な日常の営みはおよそ攻撃的でない。野心は育たないし、破壊も得意ではない。鋭角の視線や言葉が飛び交うビルの谷間もないし、虚栄も根づかない。この町自体が温室だったのかもしれない。  行き場を失いこの町に帰ってきた。波の上を歩いて帰ってきた。海を渡ってふく風が山を越えることなく路地裏に消える町に帰ってきた。