飽気Ⅱ

秋は 川面を渡って 橋の向こうから 僕の襟元に そっと忍び込む 背中の下で 昨日の雨が 震えている カラスが1羽 右の目から 左の目へ 消えていく 土手の上をトラックが 我が物顔で走り去る 残された砂埃だけが その時だけの命もてあます 僕の心の中には もう冬の風が吹いていて 草の匂いの向こうに 縮こまる 明日を凍らせてしまう 朝から夜まで 夜から昼まで 昼から朝まで そして今日から今日まで 僕は一人呟いている

さっきから おじいさん 釣り糸垂れて 身動き一つしない 燃え尽きた懐かしい昔が 南へ下っていく いつからだろう 時計の針が 左へ回り出したのは  思い出したくないことばかりが 長い影を落としている 橋の下まで歩いてみようか なにもないだろうけどさ 昨日と今日の狭間に 幻の明日があるかもね 僕の心の中には もう冬の風が吹いていて 草の匂いの向こうに 縮こまる 明日を凍らせてしまう 朝から夜まで 夜から昼まで 昼から朝まで そして今日から今日まで 僕は一人呟いている