歯医者さん

 2箇所も詰めていた歯が取れたので、今日歯医者さんに行った。幸い近いのであっという間に行って、あっという間に帰ってこれる。治療をしたのかというくらい早い。歯だけは、割と早く治療に行くので、毎回簡単に済む。痛くない治療を望めばこれに限る。ただ段々穴が神経に近づいているので、少しは痛む。  会計を待っている間に、窓から景色を見ていた。僕の薬局は田舎でも主要道に面しているので結構車の往来があって、静かとは言いがたい。歯医者さんは1本裏通りにあるのだが、通る車も少なくて、昼間なのにとても静かだ。住宅街にある歯医者さんの窓ガラスの向こうに、家々の屋根を被うように小さな山の緑が見える。薬局とつい数百メートルしか離れていないのに、何かとてものどかなところにいるような気がした。ここにこうして何十年も暮らしている人がいる。とても気に入って、仕方なく、どこかへ旅立つ手段として。この景色を見つづけて、人間としての営みを営々と築いている人がいる。思考が停止するような、虚脱感に襲われた。僕ら普通の人間にとって、たいしたドラマはない。変化すらあまりない。変わらぬ町で変わらぬ人と喜んだり悲しんだりして暮らしていく。  山の緑は、実は新陳代謝を繰り返しているはずなのに、いつも住宅を被っている。僕ら人間と同じだ。個々の構成は違っても、町は町であり続ける。