豆腐屋

 今日の午後、初めて見るセールスが入って来た。薬局に来るのだから製薬会社か問屋さんだと思うのだが、彼がチラシを見せながら言った言葉は「〇〇豆腐店」のものです。
 まるで場違いだが、彼が手に持ち僕に向けて見せたチラシには、何とマスクの絵と値段が書かれていた。文字は読まなかったが、さも薬系のチラシに見えた。「マスクはいられないでしょうか?」と尋ねられて僕は即座に答えた。
「うちは薬局だから家族がするマスクは間に合っているよ。本来うちはマスクを売ったりする薬局ではないから、家族分があれば十分」
 その言葉を聞くとセールスはそそくさと帰っていった。
 実際に彼が豆腐屋さんだったのかどうかは分からない。まさにコロナが流行る前にマスクを買い占めた経済マフィアならぬプロ集団だったら大もうけしたのだろうが、どこから見ても素人に見える。恐らく最近になってマスクはもうかるなどと入れ知恵されて参入したのだろうが、もう時は遅しで、どこにでもマスクは並んでいる。かつてのような暴利をむさぼることはできない。
 「美しい国日本」ともっともこの国で汚い人間がむくんだ顔で言っているが、コロナがあぶりだしたのは、とても恥ずかしくてそんなスローガンなど掲げれない光景だ。汚れた表紙をめくればダニだらけだ。