無神論者

 「つらいなあ」その哀しげな言葉に胸がつまりそうだった。僕より少しだけ年上だが、がっちりした体格で見るからにエネルギッシュな方だから、ふと漏らした言葉が余計に切なく響いた。
 ある目の病気で視界がだんだん狭くなっていた。数年前に初めて尋ねてきてくださったが、僕の漢方薬が少しはお役に立てて、進行はこの間ほとんど止まっていた。眼圧は正常域に収まった。ところが一昨日来られたときに、視界が少し狭まったと報告してくれた。毎回来られるときには検査結果を尋ね、「調子いいです」の返事をもらい続けていたから、お役に立てれていることで毎回安堵していたが、今回初めて進行したと言う報告になってしまった。永遠にお役に立て続けれないことは当たり前の話で、どなたをお世話していても覚悟していることだが、やはり目のトラブルで進行されてしまうと、その先の辛さが想像出来るので余計に辛い。
 どんなトラブルでもいつかは受け入れなければならない時が来るが、できれば受け入れることに抵抗がなくなるまで待ってほしい。「年だから仕方ない」と心底思えるときまで待ってほしい。未練を残さなくてもいいときまで待ってほしい。誰もが通る道なら、皆と同じ苦しみで許してほしい。幸せから引き算しても、せめて少しでも幸せが残るところで許してほしい。
 僕は無神論者で生きるほど心は強くないのだと思う。