動機

 もう何年も僕の薬局では変わった漢方薬のファンがいる。今日も15人分その漢方薬を取りに来てくれたグループがある。統計を取ったことがないから毎年どのくらいの方が利用してくださっているのか正確には分からないが、今年は例年より多いかもしれない。と言うのは毎日、中国の新型コロナウイルスのニュースが流れるから心配な方が多いのだろう。牛窓みたいな田舎に中国からやってくる人はいないから、地元の人は少ないが、それでも接客業の方などは敏感で、職場の注文をまとめて取ってくれたりする。「あの漢方薬を飲んでくれている方でインフルエンザにかかった人はまだいないよな」と娘に尋ねたら、去年一人かかったらしい。それでも案外と軽く治ったみたいで、今年も取りに来てくれている。
 もともとはノロウイルスの患者さんのお世話に使っていた漢方薬だが、よく考えてみれば漢方薬ノロウイルスを特異的にやっつけるはずがない。全てのウイルスに同じように立ち向かうはずだ。となるとインフルエンザなどにかかる前に予防的に飲んでいたらどうなのだろうと考えたのが始まりだ。当初は好奇心の強い方が実験的に飲んでくれていたが、実績を多くの人が体験してくれて、冬になると取りに来てくれるものになった。僕が何か秀でているというものではない。どこの漢方薬局でも用意できるものだが、僕の薬局みたいに患者さんと関係が近いところでないと成立しないもの。漢方薬の効能欄にそんなことは一言も書いていないのだから。「この成分が入っているから、インフルエンザでも予防するはずじゃあ!」で始まったものだ。田舎発ののどかな動機だ。