映画

 笑いながら聞いていたから正確ではないが、元々、正確を期待されるような話ではないから、記憶違いは大目に見てほしい。
 ある漢方メーカーのセールスが、入ってくるなり昨日観た映画のことを喋り始めた。たださすがに僕は、田舎の薬局のハンディーを消すべく情報が欲しいから、一応その話からは逸れた。そして10分後か15分後か分からないが、満を持して彼がその映画について話し始めた。
 彼が見たのは舘ひろし主演の「終わった人」だったらしい。その内容で彼が印象に残ったことを教えてくれたのだが、映画の中で句を披露するらしいのだが、それが「散る桜、残る桜も 散る桜」と言うものらしくて、何となく悲哀にみちている。教えてくれたセールスは50歳代だと思うが、関西のセールスらしく基本は面白いのだが、そこの部分だけは何故か神妙な顔つきに思えた。共感するものがあったのだろうか。
 映画の受け売りだが、定年した男性が行くところのベスト3は公園、図書館、フィットネスジムらしい。何となく分かる。この冬、フィトネスジムのプールに1ヶ月通ってみたが、それこそ僕より年上の人が一杯いた。全くそれはイメージとは異なっていた。若者ばかりで気恥ずかしくなるのではと想像していたから。図書館に行くことは最近ないから実際は分からないがこれまた容易に想像がつく。自称インテリあたりは図書館だろう。結構居心地も良いし、何よりも自尊心を傷つけられない。
 そしてこれらが合わないタイプの人は大きなスーパーに行くらしい。これはしばしば目撃する。スーパーの中に設置されたベンチやソファに腰を下ろしている人をよく見かける。人寂しくもないし、ある程度お金を持っていれば、台所代わりにもなる。ほんの少々買い物をしてもそれなりにもてなされる。ある程度の人格は保障されるのだ。
 なんとも寂しくて切ない映画を観たものだと聞きながら考えていたら、実際には「家族っていいなと思いました」と関西人らしからぬ感想を言った。ボケも突っ込みもない映画が新鮮だったのかもしれない。人と分かち合わなければ収まらないほどの大きな感動を貰ったのだろう。