冥利

 わずか2,3年、会わなかっただけなのに面影を探さないと誰だかわからなかった。ただ声はかつての彼そのものだし、仕草もかつてと同じだからまさか疑いはしないが。
 僕は随分とりりしくなったように思えた。もともと都会で活躍していた人だが、気持ちが落ちて僕が世話をすることになった。再び都会に行って音沙汰はなくなったが、再び僕の漢方薬が必要になったのだろう。
 僕が彼が分からなかったのは、随分とスリムになっていたからだ。結構格好良くなっていて、以前のふっくらしたイメージから今は鋭くなっていた。都会で洗練されたのか、意図的にダイエットで引き締めたのかと思って尋ねると、相談に来た体調不良の原因のせいでやせたと言っていた。やせたといっても半年で20kgもやせたらしい。1ヶ月で4kgやせたりしたものなら病気ではないかと思うのが医学の世界だが、よくも20kgやせて無罪放免になっているものだ。
 僕は彼が言う病気の原因でやせたというのは理解できなかった。彼が教えてくれた病気は、食べたものの吸収には関係ないから僕はやせないと思っている。それなのに彼は自信を持ってそれを通そうとする。漢方薬を作ることになって参考に今現在病院の薬を飲んでいるかどうか尋ねた。すると甲状腺の薬を飲んでいると言った。甲状腺機能亢進だ。これで理解できた。それならこのくらいのことはありうるのだろう。原因が甲状腺のトラブルだと言うと驚いていた。医者からおそらく何の説明も聞いていないのだろう。医者って結構不親切なものなんだと思ったが、その医者が特別なのかどうかは分からない。ただ、ある程度は説明して患者を安心させておかないといけないと思う。診断名と直結する薬をただ渡すだけではいけない。患者は消費者ではない。
 高速道路を走れば車で2時間くらいで帰ってこれるらしいが、いったん縁が切れていても、困ったときにはやはり頼りにしてくれるのは嬉しい。数年前のことが思い出される。体調不良はあっても幸せをうかがわせる雰囲気を感じることができるのは漢方薬剤師冥利に尽きる。