水道管

 温暖な牛窓で「寒さネタ」など滅多に書けないから今日も調子に乗って。
 昨日の夕方、処方箋の薬を取りに来た方が薬を受け取っていったん薬局から出て行ったのに、すぐに引き返してもう一度入ってきた。そして「今夜は冷えるから、水道の水をこのくらいの太さで出し続けておいたほうがいいですよ。水道代は安いんだから、水道管が破裂するのを思えば安いもんです。チョロチョロじゃあダメですよ」と言って、自身の小指を突き出した。水道管が凍って破裂するなど考えたこともないので不意打ちを食らったようだが、この2日間の冷え具合は確かに尋常ではない。そんなこともあり得るなと思った。そしてわざわざ引き返して教えてくれたその男性に感謝した。その男性は町内で水道工事や燃料のお店を手広くやっている人で、専門家だ。彼の嗅覚が、およそそんなことを考えもしない我が家を探知したのだろう。専門家といわれる人の心強さを感じた。
 薬局を閉めてから外の温度を測ってみた。氷点下0,4℃だった。なるほどまだ19時の段階で氷点下だから、朝方にはかなり冷えるだろうと想像できた。この僕でもただならぬ状況が理解できた。だから寝る前には教えてもらったようにするつもりでいた。
 ところが夜の10時頃、何となく不安になって駐車場に出て水道をひねってみた。すると既に凍っていて蛇口が全く動かなかった。どうすればいいのか知識は全くないから、がむしゃらに蛇口を開けようと力を入れていたが、ある瞬間急に動いた。たったそれだけなのに嬉しいというか安堵した。もう深夜を待たずに凍っていたのだ。自然の力に恐れ入った。そこからは折角教えてくれたことを裏切ってはいけないと思い、使い捨てカイロとタオルを持ってきて蛇口に縛り付けた。そしてバケツを蛇口の下においてチョロチョロ水を流し始めた。小指のように流さなければならないのかと思ったが、そんなに流したらすぐにバケツは一杯になり、溢れる水で駐車場が水浸しになる。それも困るので折衷案らしくソーメンくらいの太さにした。そして家の中の蛇口全てでチョロチョロ程度に流し続けた。
 まだ暗いうちに目が覚めたから恐る恐る駐車場の蛇口をひねってみると、普段どおりの水の出方だった。たったそれだけのことでも嬉しかった。水道管が破裂し、家の水道が使えなくて、修理してもらう。一連のストレスを避けることが出来たのは結構価値がある。わざわざ引き返してくれた社長の親切に感謝だ。氷のように冷たい為政者ばかりのこの国で、使い捨てカイロみたいな温かい人もいる。