久世町

 久世町の第九の演奏会で、ソリストがいないことを知ったのはつい数日前だ。珍しいといえば珍しいが、チケットを買ってしまったのだから今更悔やんでも仕方ないと言い聞かせて今日聴きに行った。ところが良いほうに完全に裏切られた。ソリストが揃っているのと遜色がないほどすばらしかった。  牛窓と同じくらいの町の規模でよく毎年第九のコンサートが出来るものだと、以前から感心していたが、早川太鼓など文化活動が盛んな町だと言うのは、開催されている公演の数の多さでよく分かる。そしてその質も高い。2時間掛けて聴きに行ってもいいようなものが多い。そういった町だからだろうか、オーケストラの質も他で聴くのと遜色がなかった。そして例のソリストの件。あるところは初老の一団員が代わりを勤め、他の部分は、小中学生の団員たちが綺麗なコーラスを披露した。恐らく連れて行ったかの国の女性たちは、初めて聴くからなんら違和感はなかったみたいだが、何回も聴いている僕も、これはこれですばらしいと思えた。ソリストがいないことを知ったときの失望は、一瞬にして霧散した。演奏が終わったときのブラボーは一番多かった様な気がする。  その後、会場を出る観客に向かって、玄関付近にさっきまで歌ってた人達が整列して見送ってくれた。思わず僕は子供達に賞賛の言葉をかけ、ありがとうと言った。その言葉を残さずに会場を出ることは出来ないと思った。何かをやり遂げるって、大人も子供も輝かす。全員が輝いていた。中国山地の入り口の町から見上げた空のように。