提案

 なんていう提案だろう。ありえないくらい有り難い提案だ。今までの僕に恩返しではない。単純に母、2人にとってはおばあちゃんが、かわいいのだ。次女のほうは、まだ母が元気だった頃日本にいて時々遊びに来ていたから情が移っているのはわかるが、三女は痴呆が完成してからの母しか知らない。もう何度も一緒に母を訪ねているから、これまた情が移ったのだろうか、おばあちゃんを家につれて帰ろうというのだ。  2人につまらないアルバイトをさせたくなかったので介護のアルバイト先を探した。そこの施設の計らいで今介護の専門学校に通っている。アルバイトで介護をし、その理論付けを専門学校でしているから、今日母を見て、家で介護が出来ると判断したらしい。母は一時ベッドから起き上がれなかったが、今は大食堂で車椅子に腰をかけ何時間も過ごすことが出来る。食事もゆっくりではあるが自分で食べることが出来る。そのことが二人の心を動かしたらしくて、清拭も出来るから家につれて帰っても大丈夫、訪問介護と両方で、私達がおばあちゃんの世話をしますと言うのだ。  もしそんなことが出来たら、二人の姉が喜ぶに違いない。千葉と横浜にいて、時々母を見舞いに帰ってきてくれるが、施設に入っているのと弟の家にいるのとでは大違いだろう。車椅子が入ることが出来るトイレがあれば十分なんだそうだ。今だ姥捨ての呵責に苦しむ僕を察したのか、かの国の単なる価値観か、なかなか日本人にはありえない提案だ。  岡山、倉敷、玉野、牛窓、岡山と場所を変え11時間行動をともにしたが、「お父さん、話したいです」と急遽昨日電話をしてきた不吉な予感をさておいて、いつもに勝る情の深さに感謝した。