堀文子

 どうも再放送だったらしいのだが、偶然NHKの教育テレビで見て一瞬にして引き込まれ最後まで見てしまった。白髪の老婆だが、見た瞬間から人を魅了する何かを感じた。  もちろんその人を知らなかった。画家だから僕の興味からかなり離れている分野だ。ただ放送内容が絵についてではなく、画家が青春期に体験した太平洋戦争の時代風景だった。226事件がつい近所で起きたというくらいだから、東京の中枢部で暮らしていたのだろう。少女がそれを目の当たりに見て、その後を信念を持って生きてきたことが分かる。  多くを語ってどれも心に突き刺さるものばかりだったが、特に印象に残りこれから戦争を語るときには必ず使ってやろうと思った言葉がある。それは「戦争は他人を使って人を殺す」と言う表現だ。なんて的を射た言葉だと思った。僕も当然そんなことには気がついていたが、こんなに短い言葉でその本質を突く能はない。これなら短い会話の中でも戦争の本質を語れる。戦争で儲ける奴や企業が、自分や一族で戦争に行き戦うならまだしも、他人様を法律でがんじがらめにしておいて戦場に送り人殺しをさせるなんてことを、戦争に刈り出される側の人間が許してはいけないのだ。あいつらの儲けに対して何故何のメリットもない人間が最前線で命を捨てなければならないのだ。やつらの手先の政治屋が暗躍して法律を徐々に改悪しているのを今防がなければ、他人を使って人殺しをする奴らの、思うがままを許してしまう。  現代の世情は、見事に太平洋戦争の頃と重なり、男女のスキャンダルやオリンピックに熱狂しているときに、その陰で着々と準備は進んでいると訴えている。彼女は体験的に、そうした暗黒時代の序章に気がつき食い止めることが出来るのは女性とアホコミだと確信していたらしい。ところが昨今の女性は、身を飾ることしか能がないのが増えていて、アホコミも政治屋の手先になっていて、どちらも防波堤にはなりえないと危惧している。  こんな時代が再び来るとは思わなかった。作られた貧困階級が、軍隊しか食うところがないと率先して志願し始めたらもうおしまいだ。欲望のためにはしたたかな奴らの高笑いが聞こえる。