当たり前

 アメリカの医師が若いドクター向けに書いた名著『ドクターズルール425 医師の心得集』(クリフトン・K・ミーダー編、福井次矢訳/南江堂)には、医師が持つべき「薬に関する心得」として次のような提言が出てきます。

(1)4剤以上飲まされている患者は、医学の知識が及ばない危険な状態にある。 (2)薬の数が増えれば増えるほど、副作用のリスクは加速度的に増す。 (3)処方を中止しても、患者の状態が悪くなるような薬はほとんどない。 (4)可能ならば、薬の処方を全部やめる。それができないなら、できるだけ薬を出さないようにする。 (5)効いているのか疑問に思った薬は、たぶん効かない薬だ。 (6)「患者は処方通りに薬を飲まない」

 この文章を今日インターネットで見つけた。目を通した人も多いと思うが、頷ける人もいれば、否定したくなる人もいるだろう。僕は当然前者だ。良くぞ言ってくれたと思うし、製薬会社の力が強いアメリカでこう意見を表明するのは圧力がかかって大変だろうなとも思った。あの手この手で便宜供与を怠らない製薬会社が、医師を自由に操っているのは見ていて分かるが、気骨のある医師も時にはいるものだ。テレビでタレント同然に振舞う医者を見ていたら分かると思うが、所詮企業の手のひらで飼いならされ踊らされているレベルだ。スポンサーとして権力を行使する製薬企業にたてつく勇気があるような人物はテレビなどに出ない。製薬企業も東電と同じ穴の狢だ。  どの番号の内容も腑に落ちるが、特に5番がいい。僕も薬局製剤の漢方薬を作ることが多いから、効かなければ製薬会社のせいに出来ない。何かを売るのなら企業が悪いと言い逃れできるが、薬局製剤を選択するのは全て薬局の意思だ。言い逃れなど出来ない。だから僕は2週間分だけ基本的には呑んでもらうことにしている。そこで効いているか効いていないか判断する。効いていなければ当然処方を一から考える。効いていれば同じ処方で攻める。当たり前と言えば当たり前だが、この当たり前が医師の世界でも難しいのだろう。