脱線

 「西本願寺のお寺があるでしょう?」と言われて京都のことを話しているのかと思ったが、愛媛県のあるお寺のことみたいだ。愛媛県にも西本願寺があるのかと思ったが、そんなはずはないだろう。グループみたいなものか。あるいは支店みたいなものか。興味がなかったから詳しくは聞かなかったが、要は傘下のお寺みたいなものかな。
 その女性はお参りに行ったのではない。何とみかんを買いに行っただけなのだ。ご主人とドライブがてらみかんを買いに行ってきたと言うが、いくら愛媛のみかんが美味しいと言っても、下手をしたら往復300km以上ありそうなところにみかんを買いに行く?驚き、呆れ、羨望、こっちが理解に追いつかない。
 話の発端が「瀬戸大橋を渡ると高速代が凄く高くなる」から始まっているのに、みかんの値段をもそれが加味されるのだからめちゃくちゃ高くなるに決まっている。ETCを利用して丸亀までで往復4000円だから、愛媛まで行ったらいったいどのくらいかかるのだろう。下手をしたら1万円余分に払ってみかんを買うことになる。スーパーに行けば有名なみかんの産地のものはすべて手に入るのに。
 そういえばこの夫婦、先日香川県にうどんを食べに行ったと処方箋を持って来た時に言っていた。津田の松原と言うサービスエリアのうどんが美味しいそうで、わざわざそこまで食べに行くらしい。そんなにうまいのならと僕も調べてみたのだが、片道2時間と分かったので、すぐにあきらめた。香川県のうどんはさすがに美味しいが、そのためだけに行くのは僕の発想にはない。100倍くらい美味しかったら行くかもしれないが、2倍や3倍なら興味はない。
 腰が曲がってきたことをとても気にしているその農家の女性は、とても農家の方には見えないくらい、日焼けを防いでいて、とても上品に見える。実際に語り口も物静かで気品がある。ご夫婦ともよく働き大百姓を維持されているが、恐らく大掛かりな小さな楽しみを大切にされ一所懸命働いてきたのだろう。いやいや、僕より結構年上なのに、その行動力をもってすれば、大掛かりではなく小掛かりなのだろう。そして小さな楽しみではなく大きな楽しみなのだろう。
 こうした人たちを応対し、少しばかり脱線する。だから僕は楽しく今まで仕事を続けられてきたのだと思う。

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