一手先

 本当にかわいそう。  昨夜、妻のフェイスブックに、通訳からある女性が盲腸で入院したと連絡があった。かわいそうな理由は3つある。  見知らぬ国で入院し、言葉が通じないから病院のスタッフと意思疎通が出来ない。同室の人とも会話が出来ないから、不安の中でウツウツと過ごさなければならない。  さっき調べたら、日本で盲腸で入院し手術をしたら自己負担が7万から10万円くらいかかるみたいだ。日本にある本社の繁忙期に3ヶ月の期間を区切られて応援に来たスタッフだから、給料も特別いいことはない。と言うことはひょっとしたら2か月分の給料が、あるいは全部が入院費で飛んでしまうのではないか。希望して来たのではないから、日本に来れただけで満足はしていない。結果的に3ヶ月がただ働きになってしまう可能性がある。  この女性は先ず、福山の第九を聴きに連れて行った。そして明後日、高松に和太鼓のコンサートを聴きに行く予定だった。とても楽しみにしてくれていたのに、それがかなわない。高松のコンサートは宇野からフェリーで往復するからそれもとても楽しみにしていた。  おまけにこの女性はうどんもラーメンも受け付けない人で、先日苦肉の策で渋川のホテルのバイキングにしたら、驚くほど食べた。その落差に驚いたが、一口で箸を置かれるよりはこちらも気が楽だ。そこで昨日、高松のホテルにバイキングを予約しておいたのだが無駄になった。と言うのは他の7人はうどん県のうどんを楽しみにしていたのだが、彼女のために諦めていた。予約していなければ急遽変えればいいのだが、こともあろうに予約しているものだからそれは出来ない。7人はうどんを食べられる状況になったのに食べれない「かわいそう」僕は昼食代が半額以下ですみそうなのに予約しているばっかりに出費がかさむ。  3番目のかわいそうな理由はどうやら僕のことだ。思わずもったいない宣言をしそうだ。ただ、何かの縁で知り合い、二度と会えない人達に想い出は沢山作ってあげたい。明後日の高松行きがなくなったのなら、彼女のための高松行きを計画すればいい。僕のお気に入りのフェリー、玉藻公園丸亀城、瀬戸大橋コースでどうだろう。早く出れば最後に倉敷観光も組み込める。  庶民が年齢を重ねていくといいことも少しはある。その1つが我欲が消えること。行動の理由がいかにも単純化されてくる。今流行の将棋のように、なんて先どころかすら読まない。