悶々

 もう30歳が近いのかもしれない。いつから会っていないのだろう。記憶を蘇らせて顔を思い浮かべようとしてもほとんど浮かばない。なんとなく思い出すのは、中学生のころ親に連れられて薬局に来ていた頃の姿だ。別に暇ではなかったが、薬局が終わってから少し数学を教えてあげていたことがある。もちろん無報酬。仕事以外でお金をいただく必要もなかった。ただ、昔、危ういところで踏みとどまっていた母親が更生して懸命に育てている姿が、僕には不憫だったのだろう。
 その子がもう10年近く引きこもっていると言う。ごくごく普通の子だったが、スポーツで進学した高校で体罰を受け、以来社会から遠ざかるようになったみたいだ。母親はもう諦め気味だが、事実を耳にしてしまったから、僕の頭の片隅にいつもそのことが居続けている。母親を通して色々な提案をしてみたが、今のところ全敗。心も体も健康そのものだから漢方薬の出番はない。何か興味を引く提案はないかと、世代のギャップに苦しみながら模索中。
 僕の漢方薬を飲んでくださっている家庭でも同じような状況の子供たちがいる。専門家ではないから、対処すべく術を知らないが、いつの日か希望のうちに過ごす日々が来たらと願わずにはおられない。幸せを謳歌しすぎではないかと言う階層との乖離に、日々悶々とする。