勇者

 一昨日の夜、娘に言われて戸外の水道を少しずつ流していた。天気予報で寒波が予想されていたから、水道管の凍結を心配してくれたのだろう。案の定、翌朝には、バケツにたまった水が凍っていた。バケツの底まで凍っていて、おまけに、バケツからあふれた水がコンクリートの上でも凍っていて、バケツと一体化して動かすことができなかった。そしてそのバケツは今もまだ、凍ったままの氷を蓄えている。
 このような光景はもう記憶から飛んでいて、前回が思い出されない。10年以上なかったかもしれない。「暖かいね!」と言うような挨拶が冬でも多く交わされていたような気がする。雪も当分見ていない。わざわざ北の方まで雪を見にベトナム人を連れて行かなければならないほどだった。
 一瞬家の外に出るだけで、衣服が冷たくなる。夜の散歩が怖いと感じたほどだが、これも経験がない。寒さを理由にこの20年くらい夜の散歩をやめたことはない。自分の体の衰えもあるのだろうが、おそらくそれでもこの冬は寒いのだ。
 ところだが、テレビで見る北国の状況はどうだ。想像を絶する光景だ。例年のように暖かい冬を過ごしていたら、まるで外国で起こっていることを伝えられているくらい臨場感はないが、少しでも寒さを疑似体験をすると想像力が働き、ほんの少しだけ情況が五感に訴える。
 それにしても北国の方は、いったいどんなスキルを持って対処されているのだろう。古代からの経験が脈々と生きているのだろうか。それとも逆に現代科学を駆使して乗り切っているのだろうか。ご本人たちにそんな認識はないのだろうけれど、僕には郷土、土地を守っている勇者のように見える。