歓声

 昨日丸亀の第九のコンサートで、演奏が終った瞬間に、僕の後方から男性の声で「ありがとう」と大きな声が上がった。第九の最後はそれを超えるものを聴いたことがないくらいの盛り上がりの中で垂直に終わる。誰もが最高の高揚の中で最後の瞬間を味わうのだが、ありがとうの声を聞いたことはなかった。ただ僕は、その歓声は多くの人の気持ちを代弁していたのではないかと思ったのだ。いわば一番ふさわしい歓声だと思えた。
 たとえば丸亀市民が演奏し、歌うのだから個人的な知り合いがいたのかもしれないが、僕には個人に向けた声とは思えなかった。それこそ歓びの歌を聴いて、感極まったのか、あるいはその演奏者達全員への感謝なのか分からないが、いやいや、おそらくその両方が混ざって、あの声になったのだと思う。
 ありきたりのと言うか定番のブラボウしか僕などは言えないが、形にとらわれずに歓声で応えたその男性に僕はそれこそ拍手を送りたかった。僕と同じにわかクラシックファンに違いないが、心のままを表現できる純情?勇気?にそれこそ勇気付けられる。歳を重ねるにしたがって僕も羞恥心が少しずつそぎ取られてきたが、いまだ丸腰にはなれない。いつか本当に自分を解放して精神を自由に遊ばせてやりたいと願っているが、まだまだその領域には近づけない。