敵対心

 今日笠岡ベイファームに行ったのだが、従来とは行く道が違っていたので、車窓の風景が異なっているように見えた。今日のルートだと、如何に干拓地が広大な広さを誇っているかがよく分かった。公園かゴルフ場か横目で見ながらだったから詳しくは分からなかったが、これまた広い範囲に、人工的な施設が展開していた。その光景を僕は羨ましく思ったのではない。駐車場に止まっている車の数と、ちらほらしか見えない人影で、およそ利用されていない施設のように思えた。昭和のどの時代に広大な入江を埋め立てたのかしらないが、いかにも耕作されていない土地を眺めると、当時利権に群がった死長を始めとする死界議員などの犯罪性が頭をよぎる。あのままこの辺りが入江だったとすると、多くの魚が獲れるに違いない。当然カブトガニも絶滅の危機にさらされることもなかっただろう。
 幸運にまだポピーは満開に近く、十分同行のかの国の女性達を満足させてくれた。訪れる客が多くて、僕は一番不便なところにある駐車場に車を止めたのだが、車から降りたら上空を鳶が2羽舞っていた。僕は何気なく鷲がいると大きな声を上げたのだが、すぐ横で男性の小さな声が聞こえた。聞き耳を立てると「ワシ、ワシ」と小さな遠慮がちな声で教えてくれていた。その男性はかっこいい大きなオートバイで来ていて、おもむろにこれまたかっこいいカメラをセッティングしていた。明らかにポピーの写真を撮りにきたのだろう。僕がかの国の女性達を促してオートバイと一緒に写真をとるように提案した。すると女性達は喜んでオートバイの周りに立ち、それぞれが何度もシャッターを押していた。オートバイが道路を埋め尽くすかの国の人はオートバイに一際興味がある。
 そうした中、僕はその男性と少しばかり話をした。年齢のなせる業だと思うが、最近多くの見知らぬ方から声をよくかけられる。年齢が十分上がってきたので、敵対心を感じられないのだと思う。だからしばしば話しかけられる。年をとっていいことのうちの一つだ。ちょっとしたことで会話が成立する。僕らは表情を伴う多くの言葉を交換できた最後の世代になるのかもしれない。