危険

 水泳ネタでもうひとつ。先日あまりにも泳ぐことが身体に負担になったので思い出したことがある。それは去年の夏、川で流された子供をあるお医者さんが泳いで助けた話だ。その時に思ったことと、今僕が思うことは全く異なる。やはり現実を知ることは大切だ。
 当時、勇敢にも子供を助けたお医者さんは当然賞賛の嵐だったが、その賞賛の後に必ずと言っていいほど解説がついていた。「溺れている人を見たら助けに入るのではなく、浮かぶものを投げ助けを呼ぶ」と言うものだった。そして、お医者さんは御自分の家族に無茶をするなと叱られたそうだ。お医者さんはその川を知り尽くしているそうだから、勝算は当然あっただろう。泳ぎにも自信があったらしい。
 そのニュースを見ていて、自分でも同じことをすると思った人は全国にはかなりいたのではないか。田舎で育った人間にとっては、海も川もそんなに怖いものではない。夏休みの多くをその中で過ごしていただろうから。ところが、海や川が何十年同じようにそこに存在していても、こちらの側に何十年分、古くなり機能しなくなった肉体だという認識がない。嘗てと同じように水の中でも力強く機能してくれる肉体の記憶しかないのだ。正にここのところが盲点で命取りになる。そのことを今回のプールでの水泳が教えてくれた。最早人を助けるなんて能力はないと知るべきだ。おまけに僕など携帯もスマホも持っていないから全く役に立ちそうにない。
 事実は小説より奇なり。いや、事実は小説より危険なり。