老年期

 毎日新聞の人生相談に高橋 源一郎が答えている。週1くらいの割合だと思うが、毎回目を通す。なるほどとうならせる答えばかりで、さすがにプロだと感心することが多い。先週の答えの中で老年期が一番自由な時期なのだから、それを楽しまない手はないと書かれていた。老年期に対して、今まで抱いていたイメージと逆の発想だったので、驚いたし、一本取られた感じだ。  言われてみれば頷ける事は多い。卑近な例を挙げると、欲しいものがないからお金から自由になれるし、胃も小さくなったから食べ物に凝らないし、服装で高感度もあがらないからぼろでいいし、何かを一緒にやり遂げるようなことはないから交友関係は選り好みすればいい。何か言うとうるさがれるから子や孫には黙って無関心でおればいい。  いわゆる生産をしなくても許されるようになれば、時間もお金も、全ての事柄が、すなわち信頼や責任や命までも浪費できるようになる。考えてみれば僕がこの数年かの国の若い女性たちにしていることなど、老年期だからこそ出来ていることだ。完全に自由を保証されているからできていることだ。休日のほとんどを彼女達のために費やし、給料のかなりの部分をチケット代や交通費や食事代に費やし、家族はそれを多めに見てくれている。呆れて見ているのか応援してくれているのか分からないが、僕はそのどちらの理由にしても、これからも同じことをする。自分のためではなく、家族のためでもなく、遠い異国から来ている若者達の為に持てる物を提供する、そんな自由は滅多にない。