暴露

 食事中、僕の正面に腰掛けている次女の動作が何となく緩慢だなあと思って見ていた。介護施設で朝からアルバイトをし、夕方帰ってくるとそのまま自転車でリゾートホテルにアルバイトに行く。帰ってくるのは夜の10時頃だ。さすがに疲れるだろうと思うが、春休みは彼女達にとって稼ぎ時だから、心配しながらも見守ってやるしかない。日本に再び来るにあたってそれなりに覚悟はしているだろうから、必要以上甘やかさないように心掛けている。全てが将来の肥やしになると思っているからあえて冷たくもする。  ただし、昨夜の彼女はちょっと心配になるくらいだった。顔も熱があるのかと思うくらい赤い。食欲もあまりないみたいだ。隣に腰掛ける三女の食べっぷりとは全然違う。そこで大丈夫かと聞いてみた。すると本人でなく三女が「〇〇ちゃん大丈夫。お酒を飲んだ。だから顔赤いです」と答えた。「なーんだ、心配したじゃないの」と僕は答えたが、そのお酒を飲んだ理由が面白かった。  彼女達がアルバイトをしているのは僕など利用できない高級リゾートホテルだ。コーヒー1杯が、僕の1日分の食費より高いレベルだ。そこでお金を払って酒を飲むようなことは彼女には出来ない。でも飲んだ・・・・勉強のため?  そう勉強のために飲んだらしい。次女も三女もなかなか美人だからホテルではバー?を担当することがある。次女は昨夜カクテルを客に頼まれたのだが、レシピに従って作ったけれど出来栄えが不安だったらしい。そこで同じものを作って飲んでみたが案の定間違ったみたいだ。そこでやはり練習をしておかねばと次々レシピに従ってカクテルを作り試飲を繰り返したらしい。その結果が僕の心配だったのだ。勉強のためなら仕方ない。羨ましい勉強だ。  三女が暴露したから次女は喋りやすくなったのか「間違っても、お客さんわからない」とホテルにばれたら首になるようなことを教えてくれた。僕みたいにそんなもの呑んだことがない人間だったら分からないかもしれないが、金持ちしか泊まれないようなホテルで実際にそんなことがあるのかといぶかしく思っていたら、次女も「本当、お客さん、わからない」と言った。なんだか自信を持たせてくれるような内部告発だ。フォークも使えない、食べる順番も判らないような生活をしてきているので、その種の場所では気後れしてしまうが、ひょっとしたら同じようなもの?格好だけ?などと思えれば随分と気が楽だ。分不相応が極端に嫌いだからそうしたところに行くことはないが、無駄なコンプレックスも持たなくてもいいとなればもっと自由になれる。  2つのバイトを掛け持ちして頑張り、僕のコンプレックスを取り除いてくれた。今日は食卓にイチゴを沢山並べてあげた。