自慢

 数日前分と今日のを合わせると20個以上持って行ったことになる。ことの発端は、「オトウサン コレ キレイニナル」と言って見せてくれたのが、ドラッグストアで買ったコラーゲン入りの健康食品だ。一つはビンに入っていて薬っぽいが、もう1つはお菓子かと言うような代物だった。これで綺麗になれるなら、僕は今頃銀幕の中だ。  「コレ、ウッテマスカ」と尋ねられてすぐに無いと答えたのだが、ひつこく聞いてくる。そこで、こんなコラーゲンが入っているかどうか分からないようなものでなく、高濃度のものだったら薬局にはあると言うと、どうしても欲しいらしい。僕のところにはしっかりとした製薬会社が作っているコラーゲンがあり、漁師の奥さんや農家の奥さんが主に服用しているが、どちらも日光によくあたり深い皺を覚悟しなければならない職業の人たちだ。また過酷な仕事で膝をほとんどの方が傷めている。そういった目的で飲んでいるのだが、かの国の女性達は若くて綺麗だ。「それ以上綺麗になってどうするの?」と冗談でかわしても欲求をくじくことは出来ない。コラーゲンを摂ったらコラーゲンになるということもないと説明しても俄然欲しがる。何処でどうインプットされたのか分からないが、もうほとんど効果が神格化されている。あたかも侵してはならないもののようだ。仕方なく、低級なものを買わせるよりいいかと思い承諾したが、我先に注文をくれる。でもさすがに僕も気が引けるので「こんなに若くて綺麗なときに飲んでも何の恩恵もないから、帰国して50歳くらいになったら飲んで」と言っておいた。「ワカッタ、ワカッタ」と口々に答えたから、それぞれの希望の数を聞いて帰った。  数日後、寮に持って行くと我先に箱から自分の注文の数だけ取り出した。そして一斉に開封して食べ始めた。(このコラーゲンは美味しいから食べればいい)「何が50歳になったらじゃあ!」とあきれ声を出したが、お構い無しだ。「これじゃあ、国にもって帰る前に無くなってしまうよ」と言っても多勢に無勢、もう止まらない。  日本でもまだ健康食品なるものを信奉している人はいるが、基本的には胡散臭いということは知れ渡った。不安を解消するためにだまされてもいい程度の金額を投資している。行き場を求めて外国に進出しているのだろう、日本製は安全と言う神話も手伝って、健康食品もどきの人気がすごい。コラーゲンもその1つだろう。何十年も先を歩いている人間から見ると、現在進行形でだまされている人を見るのは気の毒でならない。胡散臭いものを、肉体を提供して捨てさせているみたいなものだ。自分の体を消費地として提供しているようなものだ。  後進国に比べればさすがに技術は進歩している、ただし心がそれだけ進歩したかと言うと、それは怪しい。むしろ物欲に支配され権利ばかりを口にするようになった同胞を自慢することはできない。多くの人が同じ思いではないか。だから富士山や京都の景観や奈良のお寺を自慢する。