条件

 なんて親切なディーラーなのだろう。だから僕は、ここの車をもう3台も利用している。  3週間前、その日曜日はすごく疲れていて、珍しく昼まで寝ていた。でも、午後約束していたところがあってどうしても出かけなければならなかった。その場所は以前から好きではない細い路地を通らなければならない。細い路地から出てくる車と、路地に進入しようとする車が鉢合わせしたら、かなり面倒だ。その日も運悪く鉢合わせしたのだが、出てこようとする車が躊躇っていたため、僕は何故か強引に進入した。すると車体が明らかに何かをこすった。そのことに気がついたらブレーキをかければいいのに、そのまま進んだ。普段気にならなかった道路標識のポールに左後方をこすったのだ。ポールを傷つけたら弁償しなければならないから、降りて確かめるとまっすぐ立っている。それに引き換え僕の車は、大きく後方のドアと車輪カバーあたりがへこんでいた。衝撃など全くなかったから少しは傷ついているだろうと思ったが、結構へっこんでいた。最近の車はこうして衝撃を吸収し人間を守るんだと、素人なりの解釈で納得した。ただ、今までの僕ならその程度(誰が見ても気がつくくらいのへこみようだが)の破損は気にならないが、今回はかなり気になって、集中心を切らしたことを後悔した。僕にとって初めての新車だったからだろう。と言っても実は買って1週間目に、コンビニの駐車場に突入してきた軽四自動車にぶつけられたのだが、僕はその時にいなかったので全く壊れたのを見ていない。相手が保険に入っていない、呼び出しにも居留守を使うと言ういわくありげな若い女性だったらしくて、保険会社が全て保証してくれてきれいになったが、今回の保険の請求で初めて知ったのだが、その時に実際にかかった修理費は245万円だったらしい。そして今回のが丁度100万円かかるらしい。  そこで親切な車の会社は考えてくれた。この11月に初めての車検だから、この際修理せずに新しい車を買われたらどうですかと言うのだ。その時の理由が「修理に100万円かかる」だった。もちろん車検代もかかる。となると120万円くらいかかるのか・・・・と一瞬不安になった。でも、車を壊したときの保険には入っているはず。免責5万円は必要だろうがそれ以上は・・と考えて、「100万円も払うの?」と驚きの声を上げると、僕の不安を察してくれたみたいでやはり僕の負担は5万円ですむと教えてくれた。彼が、あえてこのタイミングで新車を買うように勧めてくれたのは、修理で350万円近くかかった車にもう乗りたくないだろうと気を使ってくれたからだ。もちろんそろばんもかなりはじいてはいるが。  ところがそうした対処は僕の方法論にはない。5万円で直るなら僕ほその方法しか考えられない。まして壊れた場所が場所で板金と言うわけにはいかず、新しいものと取り替えてくれるのだからラッキーだ。新しくなる。そして何より今回の経験で得たことがある。僕は17年乗った車を買い替えるときに息子に頼んだ。「ぶつかっても死なない車を買ってきて」と。でも次回からはもう一つ条件を加える事にした。「ぶつかっても死なない車で、ぶつかっても惜しくない車を買ってきて」と。この条件を満たすのは戦車以外ないのだが。戦車の中古ないかなあ~