辻褄

 田舎の品のない薬剤師は、ずっと不思議に思っていた。年寄りがそんなに高率で胃酸過多の状態かって。僕らの常識は、若者は胃酸過多、年寄りは無酸症。大きくこんなわけ方をしていた。そして結構それで辻褄が合っていた。ところがいつの間にか、年寄りの胃酸の分泌を抑える処方が汎用されるようになった。最初はガスターみたいなH2ブロッカーと言われる処方、そのうち以下の文章に出てくるPPIが主流になった。ガスターが出てきたときでも画期的で、胃酸による障害がかなりの確率で救われるようになった。その後出てきたPPIは胃の手術をしなくてもすむくらい潰瘍を改善した。本来はその目的くらいに使われるものと思っていたが、今は処方箋を持って来るわ来るわ。多くは逆流性食道炎の患者が多いと思うのだが、胃酸が多いというより、加齢による前傾など胃酸をためてしまう構造に問題がありそうだ。ただでさえ分泌が減っているものを、胸焼けを治す為にそれ以上減らすと、本来の胃酸の役割(殺菌)が失われるのではと危惧していた。いわゆるものに中ったり、細菌に対して抵抗できなくなるのではないかと思っていた。  今日届いた医学情報によると、医者の処方しすぎによる弊害は、それにとどまらないことが分かった。いや弊害としてはそれ以上だ。もうよかろうというくらい薬が開発されて、新たな患者も製造される。コマーシャルだけでは足りないらしくて、タラント(足らんと)を並ばせ恐怖心を煽り薬を消費させる。なんともはや、煽られやすい国民だ。

 胸焼けの治療によく用いられるプロトンポンプ阻害薬PPI)と慢性腎臓病(CKD)の関連が、新たな2件の研究で示唆された。PPIは胃酸を減少させることで、胸焼けや胃酸の逆流を治療する薬である。  慢性腎臓病は、腎臓が損傷して血液を適正に濾過できなくなる病態で、糖尿病や高血圧が一般的な危険因子とされる。  Arora氏の1件目の研究では、2001~2008年に慢性腎臓病を発症した2万4,000人を超える患者を対象とした。患者の4人に1人が過去にPPIを用いた治療を受けており、PPIを使用した患者は早期死亡リスクがほぼ2倍であることがわかった。  2件目の研究は、オーストラリア、ロイヤル・ブリスベン・アンド・ウイメンズ病院のBenjamin Lazarus氏が率いたもので、腎機能の正常な成人1万人以上を1996年から2011年まで追跡。その結果、PPIを使用した群では慢性腎臓病を発症するリスクが50%高いことが判明した。Arora氏によると、短期的なPPI使用との関連が認められている急性間質性腎炎の発作を繰り返し起こすと、徐々に腎臓が損傷される可能性があるという。また、PPIが血液中のマグネシウム濃度を低下させることにより腎損傷を引き起こすとも考えられる。  今。「米国のデータによると、PPIの処方の90%は米国食品医薬品局(FDA)が認可する適応症とは無関係である。むやみにこの薬剤を用いることが、多くの患者にとって逆効果となる可能性がある」と同氏は述べている。