湿度

「今日は漢方薬作れますか?」と薬局に電話をしてくるのだから、よほど知識がない人かと思うが全くその逆なのだ。その人は今朝からの湿度の変化を見ているのだ。そしてある湿度を割った時点で電話をしてきたのだ。食べ物の世界ならいわゆる「通」と呼ばれる人に当たるだろう。  僕がもっぱら使っているのは台湾の漢方薬だから、混ざり物が少ない分湿気をよく吸う。だから今日みたいに夜明けごろまで雨が降っていた日には、湿度が高く、まざりっけのない原沫などは使えないから(湿って分包器に薬がくっついて袋に落ちない)代替品としてエキス製剤を使うことをよく知っている人なのだ。朝の湿度が75%、その後天気の回復にしたがって65%あたりになった頃そのお母さんから電話がかかってきた。彼女の息子さんのニキビの漢方薬を作ってあげているのだが、65%では原沫はまだ使えない。そこでお母さんに、「もう少し待って、いい天気になってきたから次第に下がっていくよ」と言って、湿度が50%を割るのを待ってもらった。その時間はそれから2時間くらいでやって来た。そこでおもむろにニキビの漢方薬を作り始めた。案の定、漢方薬は分包器からきれいに袋に移行し、お母さんにも息子さんにも喜んでもらえる。  ひたすら勉強した漢方薬を飲んでもらうのだから、どうせなら効く確率が高い製品を使いたい。処方が正しくても漢方薬の質の悪さで効かないなんてことがあると、折角の努力が水の泡だ。だから僕は湿気やすくて調剤しにくい台湾の漢方薬をわざわざ使う。間違っても薬の成分よりトウモロコシでんぷんなどのほうが圧倒的に多い日本の有名な会社の漢方薬を使ったりしない。  最近処方を教えてと言う依頼が時々あるが、僕が処方を教えても、日本の有名な漢方薬を使われたのでは効かないから、あたかも僕が実力不足のように映ってしまう。だからなるべく尋ねてほしくない。効果だけに注目して評価して欲しい。田舎の薬剤師なんて、治ってもらうのが一番うれしいのだから。