保証

 「オトウサン シラナイコトニシテクダサイ」と言われてももう遅い。衝撃の事実でかの国の青年達の評価を変えることは無いけれど、かの国に対してはさすがに評価は落ちる。ただし大なり小なりどの国でもあることだから、決してそれだけで判断するようなこともしない。この国のほうがより巧妙に悪事を働いているかもしれないから。  正月の間、長い時間かの国の青年たちと車で移動したから、いろいろと面白い興味深い話を聞いた。その中の筆頭は、交通違反をして警察官に捕まったときには「3000エンクライ、アゲテ、スグイク」だろう。警察官が要求する場合もあるというし、市民は既にそれが常態化しているから、ごく普通の行為らしい。「ケイサツ キタナイデスカラ スキデアリマセン」と言うが、自分も汚いのではないのと指摘しておいた。  大原美術館でソファーに腰掛けてゆっくりと鑑賞していたときに、目の前を通り過ぎる若い日本人女性の肩から提げた小さなかばんが目に付いたらしい。そして「アレ、ワタシノクニデハ アブナイ」と言った。日本ではしばしば見かける光景だが、かの国では「オートバイデ、キテ、スグニゲル」と言っていた。それを聞いていた違う青年が「ユビワ イッパイ ダメ」と教えてくれたが、その理由はわからなかった。何故と尋ねると「ユビワ ホシイデスカラ ココキル」と言って、手首を切断するジェスチャーをした。「怖い」としか答えようが無かったが、生の声でしか内実は伝わっては来ない。  もう何人も帰国した青年達から「キテクダサイ」コールを受けているが「これでは怖くていけない」と言うと、僕をしげしげ見ながら「オトウサン コノママクル アンゼン」と言った。僕が現地の人のように見えるのか、盗るものが無い人間に見えるのか分からないが、身の安全だけは保証された。