仕事冥利

知らなくてもいいことだが、知れば驚きの声を上げる。いくつになっても好奇心は燻っていて、毎日のように知識が増えていく。もっともその質は保障されないが。 偏頭痛でもうずいぶんと長い間苦しんでいる男性は、溶接の仕事をしているらしい。こんな姿勢で仕事をするから肩も凝ると実演して見せてくれた。しゃがみこんで左手で光をさえぎるものを、右手で溶接の機械を持つ。よく見かける光景だが、その後の彼の説明が面白かった。 「溶接は、真っ暗闇の中で小さな光を見つめてする仕事なんです」 合点がいかなかったから怪訝な顔をしている僕に気がついたのだろう、もう少し分かりやすく教えてくれた。 「こうして持っている面みたいなやつはハンドシールドって言うんですけど、あれで見ると真っ暗なんですわ。そこにピンポイントで光を当てるから結構気を使うんです。だから頭も痛くなるし、肩も凝るし」 合点は行かないが、合点するしかない。職人がそういっているのだからそのとおりなのだろう。僕が解せなかったのは、真っ暗というところだ。幼いころからサングラス程度の透過性は保たれているのかと勝手に想像していた。  なんでもないような会話から得られた、なんでもないような知識だが、やはりその日1日がわけもなく満たされる。たったそれだけの、ひょっとしたら僕以外の人にとっては常識以前のことかもしれないが、僕には結構インパクトがある。相手の目を見ながら言葉のやり取りが必然の仕事冥利に尽きるのかもしれない。