想い出

 こんな人選ミスはないと思いながら、断れないタイプだから引き受けてしまった。かの国の子達を連れて奈良に旅行に行き、彼女らのカメラを落として壊し、思い出を消し去ったとき以来「写してください」恐怖症なのだが、またまたやってしまった。  今日の岡山教会は、復活祭と主任神父の転出式とが重なって、腰掛けれない人が出るくらい盛況だった。かの国の青年たちが記念にかの国の教会音楽で6年間司祭を勤めたことに謝意を表すと言うから、牛窓からも7人連れていって合流した。20人くらいの集団になり話をしているときに神父がやってきて、何故僕が目に付いたのか分からないが、岡山教会での最後のミサを記録してとアイフォーンを渡された。僕は手にすることも初めてだったのだが、神父はそれとは知らず使い方を慣れた手つきで教えてくれた。意外と簡単だったのでこれなら出来るわと思い、前述のように気安く引き受けた。練習を兼ねてかの国の青年たちを写したら、意外と簡単に出来た。  ところが、いざ式が始まって撮ろうとしたら、さっきまでと違う画面になっていた。そこで目に付いたスイッチを入れたり切ったりしてみたが、カメラの画面にならない。慌てて色々なことを試みたがどうにもならない。慌てているのが分かったのか、隣にいたかの国の女性が挑戦してみてくれた。するとパスワードを入れてくださいという画面に出くわし、もうどうにもならないと言うことを教えてくれた。そこからはもう信仰もへったくれもなく、一生に一度の記念すべき日を、思い出0にしてしまった申し訳なささで、そのことばかりを悔やんでいた。皮肉なもので、今日の記念すべきミサは、力みもなく人情味が溢れた良い式だった。  ミサの後、中庭で神父さんに謝った。神父はご自分の方に手違いがあったような言い方をしてくれたが、100%僕の無知が起こしたミスだ。この数年、ふとしたことが切っ掛けで、かの国からやってくる若者達によい想い出を持って帰国してもらうように僕なりの努力して来たつもりだが、どうも最近の僕は「想い出泥棒」になっているような気がする。どうか誰も僕に「すいませんが、ちょっとこのカメラで写真を撮ってくれませんか?」と頼まないで欲しい。