記憶

 小児期の最も古い記憶は7歳頃に消え始める――米エモリー大学Patricia Bauer氏らの研究でこんなことが示唆された。ほとんどの成人は3歳頃までの記憶しか遡れないことが知られており、この年齢以前の記憶の喪失は小児期健忘と呼ばれる。Bauer氏らは、初期の記憶が消え始める正確な時期を調べるために、まず3歳児80人超に、誕生日会や動物園へ行ったことなど最近の数カ月で経験した6つの出来事について両親が尋ね、その回答を記録した。被験者をグループ分けして、各グループが特定の年齢(5歳、6歳、7歳、8歳または9歳)のときに、これらの出来事の記憶を調べたその結果、5~7歳の子どもは3歳時に覚えていたことの63~72%を思い出せたが、8、9歳までには約35%しか思い出せなくなっていた。年少児は年長児より3歳時の出来事を多く覚えているが、年長児のほうが情報は多かった。この差の理由として考えられるのは、長時間定着する記憶は関連情報が多いこと、年長児では言語スキルが向上するため記憶の説明が明瞭になり、さらに印象づけるのに役立つ可能性があるという。

 えっ、あの頃のことをそんなに鮮明に覚えているのと、息子に尋ねたばっかりの今日、こんな文章を見つけた。最近の知見らしい。ひょっとしたらこの3歳頃のギリギリの記憶に驚いていたのかもしれない。とするとごく普通なのだ。寧ろ驚いている僕自身に問題があるみたいだ。僕のもっとも古い記憶ってなんだろうと考えてみたが、どれが古いのか前後関係が分からない。かなり自信を持って言えるが、幼稚園の時の記憶は全部吹っ飛んでいる。成人して母やいとこなどに脚色されて教えてもらったことが記憶に近い形で蘇るが、それは記憶ではない。  やま小学校だろうか。振り返るのは好きではないから、いや振り返るほど毎日に余裕がなから振り返ったりはしないが、今敢えて記憶を辿ると、小学校の高学年くらいだろうか。 勿論いい想い出なんかは蘇ってこない。かといって悪いものもない。毎日が淡々と過ぎて行っていたのだろう。それはよいことに違いない。大きな山もなかった割に、登れないくらい深い谷もなかったのだろうから。  ただこの文章を見つけただけで、記憶探しをやったが、やはり気持ちいいものではない。僕は時間に追われ、人に追われ、結果に追われているのが心地いいのかもしれない。