写真

 「おばあちゃんはひいばあちゃんそっくりじゃが。この写真はおばあちゃんかと思った」何処で見つけたのか、息子が古いアルバムを持ってきて驚いたように言った。その言い方はまるで大発見をした小学生のようだった。  そうなのだ、いつの頃からそっくりになった。90歳が近くなって、徐々にやせてきた頃だろうか。正に瓜二つと言っていい。それまではなんとなく似ているなくらいな印象だったが、ある時期から一気に祖母に近づいた。息子はひいばあちゃんの記憶がどの程度あるのか知らないが、だから写真上の印象のほうが比重は大きいだろうが、僕は正にリアルだ。こうした傾向は母や祖母だけのことではなく、巷にもごくありふれたことだ。正に遺伝子のなせる業なのだろう。同じ造形に戻っていき、命が絶たれるのが神秘的だ。  昨夜のそんな些細な出来事を思い出しながら、母を木陰に連れ出して、自然の空気を一杯吸ってもらった。人工的に調節された気温と湿度の中で季節を知らないまま暮らしてもらうのは忍びない。まして母が育った田舎にある施設で、大正の頃と景色はあまり変わっていないような気もするのだ。発展から取り残された村だから、道路がアスファルトになり、小川の護岸がコンクリートになったくらいなものだろう。蝉と烏の競演に耳を傾けながら、果たして母の脳裏に浮かんだものは何なのだろう。孝行下手の息子を持ったことを嘆いているのだろうか。あのしどろもどろの言葉で。