親近感

 薬局にやって来る製薬メーカーのセールスは、嘗てほとんどが男性だった。この人は女性セールスの走りみたいな人で、もう随分僕の薬局にも回ってきてくれている。途中何年かは、関西勤務に変わっていたが、最近また岡山県に復帰した。  僕の薬局はセールスの人にもコーヒーやお菓子を出すが、女性だから一際お菓子やケーキを喜んでくれる。特に根っからの甘党らしく、毎回美味しそうに食べてくれる。今日は娘が他の問屋のセールス達のお歳暮にわざわざ取り寄せていたバームクーヘンを切って出してあげた。するとバームクーヘンに顔を横から近づけてしげしげ眺めていたが「貼り絵ですか?」と尋ねた。これが貼り絵に見えるとは、さすが男性に混じって毎日車で走り回っているせいで余程疲れているのだろうと思った。「大丈夫?これが貼り絵に見えるくらいだったら余程疲れているよ。単なるバームクーヘンじゃないの」と答えた。「いえいえ、貼り絵ではなく、クラブ貼り絵ではないですか?」やはり貼り絵が好きならしくて、どうしても貼り絵にしたいらしい。「いやいや、そんな子供みたいなクラブの名前を付けても流行らないでしょう。酒も飲まずに貼り絵をするの?」と僕が言うと、調剤室から娘が顔を出して「そうなんです、良く分かりましたね」と女性に言った。「そうでしょう、やっぱり、美味しそうですものね」と結局貼り絵で二人が落ち着いた。  僕が怪訝そうな顔をしていたのか、娘がパソコンでそのクラブ貼り絵を開いてくれた。そこにはとても美味しそうな、もっとも昨日、その実物をいくつか見せてもらったのだが、バームクーヘンがいくつか載っていた。そしてその画面の表紙にはまるでヨーロッパの城を思わせるような外観のお店が映し出されていて、クラブハリエと店名が載っていた。  僕は勿論全く知らなかったのだが、スイーツ好きの人にとっては有名なお店らしい。大都市にしか店舗を出していないらしいが、郵送で地方の人も食べることが出来るみたいだ。 なんでも本店が滋賀県の近江らしいから、田舎の人間にとっては親近感がある。まして実力で大都市を席巻しているとなれば尚更だ。同じ田舎に住んでいて、片や大都市を席巻しているお店、片や都会の垢を洗い落とす石鹸みたいな僕とでは大違いだ。